問題提起:残業は「量」の問題ではないことがある

受注業務の残業と聞くと、多くの方が「注文の件数が多いから」だと考えます。たしかに件数は一つの要因です。しかし、件数を減らせない以上、それだけを原因とみなしてしまうと、打つ手がなくなってしまいます。

現場をよく観察すると、残業の多くは「注文をさばく時間」そのものではなく、「注文をさばけるようにするための準備」に費やされていることがあります。

  • 届いた注文書を読み解く
  • 品番を自社のコードに照合する
  • 単価や取引条件を確認する
  • 基幹システムへ入力できる形に整える

この一連の作業が、実は担当者の時間の大半を占めているのです。つまり残業は、単純な「量」の問題ではなく、「一件あたりにかかる手間」の問題であることが多いのです。ここを見誤ると、人を増やしても、システムを入れても、残業はなかなか減りません。

  1. 01FAX・メール・電話
  2. 02読み取りと照合
  3. 03例外だけ人が確認
  4. 04既存基幹へ登録
受注業務フロー ― 「さばく時間」より「準備の時間」が大きいことを示す図

なぜ起きるのか:注文の「入り口」がバラバラだから

受注業務に手間がかかる根本的な理由は、注文が入ってくる「入り口」が統一されていないことにあります。

FAXで届く注文書、メールに添付されたExcel、電話でのやり取りをメモしたもの、取引先ごとに異なる独自フォーマット。製造業や卸売業の受注現場では、こうした多様な入り口が同時に存在しています。取引先の数だけフォーマットがあると言っても言い過ぎではありません。

入り口がバラバラだと、担当者は毎回「この注文はどう読み解けばいいか」を頭の中で判断しなければなりません。品番の書き方一つとっても、取引先によって桁数や記号の使い方が違います。数量の単位も、ケースなのかバラなのか、注文書からは読み取りにくいことがあります。

この「読み解く」「照合する」「確認する」という判断作業は、経験を積んだ担当者ほど速く正確にこなせます。裏を返せば、属人的なノウハウに支えられているということです。だからこそ特定の担当者に業務が集中し、その人が抜けられない状況が生まれます。人員を増やしても、この判断ノウハウをすぐには引き継げないため、残業が減らないのです。

現場では何が起きているのか

実際の受注現場では、次のような光景が日常的に見られます。

朝、出社すると前夜から届いたFAXが束になっている。一枚ずつ内容を確認し、自社の品番に読み替えながら基幹システムへ入力していく。途中で判読しにくい手書き文字があれば、取引先へ電話で確認する。単価が前回と違えば、営業担当に問い合わせる。こうした確認のたびに作業は中断し、また最初から集中し直すことになります。

さらに、締め時間が近づくと注文が集中します。「この時間までに入力を終えないと、今日の出荷に間に合わない」というプレッシャーの中で、ミスなく処理しなければなりません。転記のミスは、そのまま誤出荷や欠品につながります。だからこそ、担当者は神経をすり減らしながら作業を続けます。

そして繁忙期になると、この負荷が一気に高まります。特定の担当者だけが遅くまで残り、周囲は手伝いたくてもフォーマットの読み解き方が分からず手を出せない。結果として、業務が一人に張りつき、休みも取りにくくなる。これが、多くの受注現場で起きている実態です。

改善するための考え方

では、どう考えれば改善につながるのでしょうか。ここで大切なのは、「作業を速くする」発想から、「判断を減らす」発想へ切り替えることです。

受注業務の負荷の正体は、繰り返される「判断」にあります。この注文書のこの欄は何を指すのか。この品番は自社のどれに当たるのか。人が毎回判断している部分を、あらかじめ決めておいたルールや、過去の実績にもとづく照合に置き換えられれば、担当者の負荷は大きく変わります。

ここでAIが役立つ場面があります。近年は、一つのAIがすべてを引き受けるのではなく、役割ごとにAIが業務を支援する「AIエージェント」という考え方が広がってきました。

  • 読み取り:多様なフォーマットの注文書から必要な項目を取り出す
  • 照合:過去の取引データと突き合わせ、自社の品番に対応づける
  • 確認:確信度が低い項目を見つけ、人の判断へ渡す

こうして工程ごとにAIが支援し、人は最終的な判断に集中する。これが、受注業務における現実的なAI活用の姿です。

ただし、誤解してはいけないのは、AIを入れれば受注業務のすべてが自動で片づくわけではない、ということです。判読が難しい注文や、例外的な取引条件は、最終的に人が確認したほうが確実です。AIに任せる部分と、人が担う部分を切り分けることこそが、受注DXの出発点になります。

なお、AIが読み取っただけでは業務が完結しない理由については、第2話「OCRだけでは、業務改善にならない理由」でより詳しく掘り下げています。

実践ポイント

受注業務の改善に取り組むなら、次の順序で考えると進めやすくなります。

  1. 入り口を棚卸しする:自社の注文が「どの入り口から、どんな形で」入ってきているかを把握する。FAX、メール、電話、それぞれの割合とフォーマットの種類を書き出すだけでも、負荷の所在が見えてきます。
  2. 判断を書き出す:担当者が毎回行っている「判断」を洗い出す。品番の読み替え、単位の確認、単価のチェック。どこに判断が集中しているかが、改善の起点になります。
  3. 一度に変えない:件数の多い取引先や、フォーマットが定まっている注文から着手する。効果を確かめながら、無理なく広げられます。

既存の基幹システムを大きく作り替える必要はありません。今ある仕組みを活かしながら、負荷の高い部分だけを見直していく。その具体的な進め方は、第3話「既存システムを変えずにAIを活用する方法」で解説しています。

まとめ

受注担当者の残業は、注文の件数そのものよりも、一件ごとに繰り返される「判断」と「準備」の負荷から生まれていることが少なくありません。だからこそ、人を増やすだけでは減りにくいのです。

AIは、この負荷のうち「読み取り」と「照合」を役割ごとに支援することで、担当者の時間を確かに軽くできます。一方で、例外への対応や最終確認は人が担うべき領域として残ります。受注DXとは、この切り分けを丁寧に設計し、現場の判断を減らしていく取り組みです。

残業を「仕方のないもの」として受け入れる前に、まず自社の受注現場で何が起きているのかを見つめ直すこと。それが、現場改善の第一歩になります。

注文経路を無理に統一せず、届いた後の受注データを揃える考え方は「FAX・メール・WEB注文がバラバラなままでも、受注業務は改善できる」で整理しています。

この記事のポイント

  1. 受注担当者に負荷が集中する「構造的な理由」
  2. なぜ人員を増やしても残業が減らないことがあるのか
  3. AIで改善できる業務と、そうでない業務の見分け方

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INSIGHTS編集部|株式会社スペリオル

現場業務AI自動化パートナー

製造業・卸売業・建設業を中心に、今ある仕組みと人の判断を尊重しながら、現場で続けられる業務改善を支援しています。

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